伝統の技術
永く受け継いだ技術。京職人としてのこだわりを少しだけご紹介いたします。
表具はたくさんの工程を経て完成します。なかなか知られることの少ないこの工程をご覧頂くことで、表具への関心を高めていただければと思います。
金箔押し

寺などで、金色に輝く内陣(ご本尊を安置してある奥の間) をご覧になったことがあると思います。
まばゆい光によって 極楽浄土を感じるために考えられたといわれています。
金と聞くと「ゴールド」といういわゆる「純金」を思い出されるかもしれませんが、「金箔」は穏やかで柔らかい輝きが魅力です。
輝きを放ちつつもなぜか心が落ち着くような・・・。
以前、下関のあるお寺で見事な金紙張りに出会いました。
3代目・橋本雙太郎が70年前に手がけたものだとわかったときは、
うれしく誇らしい気持ちになったものです。
弊社では、初代からお寺の仕事を承ることが多く、この「箔押し」の技術も受け継がれています。
金箔押しの工程
① 線引き
鳥の子紙※1に箔を押す寸法の線を引きます。全ての基礎になりますので、きっちり直角になるように枠を引きます。
※1・・・鳥の子紙
雁皮(ガンピ)や三椏(ミツマタ)の混合繊維で漉いた、光沢のある柔軟で緻密な和紙。鶏卵の色に似た淡黄色で、強く耐久性があり、墨の映りがよいことから、日本画の紙としても使われます。
弊社では、漉き元にて特別に選別した手漉きの鳥の子紙を使用しています。
② 仮貼り
線を引いた鳥の子紙を板にはります。せっかく直角に引いた枠を崩さないように上下左右均等に張ります。
③ 地引き

仮貼りが乾燥した後に、鳥の子紙に礬水を塗ります。塗っては乾燥させる作業を最低7回繰り返します。
気候に左右されやすいので、回数は慎重に決定します。
回数が少ないと金箔がはがれる原因になり、多いと金箔を押した時に表面にいやな光沢が出ます。
④ 油つけ

箔紙にバレンで油をつけます。
油が少ないと箔押しのときに紙からはがれ、油が多いと箔押しのときにうまく箔紙がはがれません。
微妙な油加減が必要となります。
⑤ 箔間紙をめくり、箔紙を箔にのせる

竹ばさみを使いながら箔の上の「箔間紙」をそっとめくります。
⑥ 箔紙を箔に密着させる

箔をきれいに伸ばしつつ、箔紙につけます。この時に箔にしわをいれると押した時にしわが残ります。
微妙な力加減が必要です。
金箔※2は0.0001ミリの厚さ、ちょっとした息でも飛んでしまいます。
※2金箔
金箔には縁付(えんつき)と断切(たちきり)があります。当社では、落ちついた輝きを持ち、非常に薄い仕上がりになるため箔と箔の境がわかりにくい「縁付」を使用しています。
⑦ 箔と箔紙を合わせたものを移す箔押し

「地」をひいた鳥の子紙にうすい礬水をひきます。
鳥の子の「地」を溶かします。礬水の量が多いと箔の表面に礬水がまわり、少ないと接着しません。
絶妙なタイミングが必要です。
⑧ つくらい・とめ

押し上がった金紙を乾燥させた後、真綿で拭き上げます。
箔にある小さな穴などをつくろいます。箔が二重に重ならないように細心の注意をくばります。
つくらいをした後、再度真綿で拭き上げます。
最後に箔押しの時よりさらにうすい礬水を表面に塗ります。表面の保護です。
⑨ 仕上がった金紙を隅々まで点検する

しわが入っていないか、箔が二重に重なっていないか、剥がれがないかを隅々まで
丹念に点検して作業終了です。